「お隣の庭木の枝が、うちの屋根や雨樋までかぶさってきている」「隣の家の樋から落ちる雨水が、こちらの敷地に直接流れ込む」 — 空き家や離れて暮らす実家を見回りに行くたび、こうしたお声をいただきます。

2023年4月に施行された改正民法233条で、越境してきた枝への対応ルールが大きく変わりました。本記事では、e-Gov法令検索と法務省資料を一次情報として、越境された側・してしまっている側、どちらの立場でも使える調整の手順を整理します。

まず押さえる2つの条文 — 233条と218条

枝・根のはみ出しは民法233条、屋根や雨樋からの水落ちは民法218条が中心の条文になります。後段で詳しく見ますが、まずは条文を確認しておきます。

民法233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)

2023年4月1日に施行された改正後の条文は、次の構造になっています。

出典: e-Gov法令検索 民法(第233条)

ポイントは、(第1項〜第3項)と(第4項)で扱いが違うこと。根は昔から自分で切り取って構わないと整理されていましたが、枝は「相手に切ってもらう」が原則でした。これが改正で、3つの要件のいずれかを満たせば、こちら側で切ることもできるようになりました。

民法218条(雨水を隣地に注ぐ工作物の設置の禁止)

雨樋・屋根からの水落ちは、こちらの条文です。

土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない。

出典: e-Gov法令検索 民法(第218条)

「直接に注ぐ構造」が禁じられているので、雨樋を付けずに軒先から直接落ちる屋根は当然NG、雨樋から越境して落水する状態も改善を求められる対象になります。自然に庭に降った雨が伝って流れる場合は218条の射程外ですが、屋根・雨樋などの工作物を介した落水は調整できる、という整理です。

改正前と改正後 — 何が変わったか

改正の核心は、枝の切除権です。改正前後を並べてみます。

観点

改正前(〜2023年3月)

改正後(2023年4月〜)

越境した枝の処理

竹木の持ち主の方に切除させるしかない(請求権のみ)

原則は同じ。ただし3要件のいずれかで自ら切除可

持ち主の方が応じない場合

訴訟で切除請求 → 判決 → 強制執行

催告 → 相当期間経過で自ら切除可

持ち主の方が不明の場合

持ち主の方の調査 → 公示送達 → 訴訟… と手続きが長期化

知ることができないと整理できれば自ら切除可

急迫の事情(倒木のおそれ等)

緊急避難の議論はあったが法定根拠が薄い

第3項3号で明文化

共有の竹木の枝

共有者全員の関与が必要との議論あり

各共有者が単独で切除可(第2項)

法務省の解説によれば、所有者不明土地が増えるなかで、相隣関係の調整が手続き面で詰まる場面が多くなっていたため、自ら対応できるルートを整理した、という趣旨です(出典: 法務省 民法・不動産登記法部会資料7 相隣関係規定等の見直し)。

自ら切除できる3つの要件 — どこを満たすか

第3項の3要件を、お持ちの土地が越境された側になったときの実務目線で見ていきます。

要件1: 催告して相当期間内に切除されない

もっとも一般的なルートです。流れは次のようになります。

  1. 竹木の持ち主の方を特定する(法務局で登記事項証明書を取得すると確実)

  2. 切除のお願いを文書で行う(後の証拠のため内容証明郵便が安心)

  3. 「相当の期間」の経過を待つ

  4. 期間経過後、越境部分を自ら切る

「相当の期間」について、法務省の解説や自治体の案内ではおおむね2週間程度が目安とされています(出典: 八千代市 民法第233条改正のご案内)。樹種や枝の太さで前後はありますが、丁寧な進め方として「期限の日付を文面に入れる」「写真で越境状況を記録しておく」が現場では役に立ちます。

要件2: 持ち主の方を知ることができない・所在不明

空き家・空き地で持ち主の方が遠方に住まわれていたり、相続される方が確定していなかったりするケースです。

このような場合に、「相当の調査をしてもなお知ることができない」と整理できれば、催告手続きを飛ばして切除に進めます。とはいえ調査の記録は残しておくべきで、登記取得・郵便の不達控え・住民票の写しなどを保管しておくと、後の費用請求や紛争予防に効きます。

要件3: 急迫の事情があるとき

台風で枝が折れて落下しそう、電線にかかって停電のおそれがある、といった場面です。改正前から緊急避難で扱われていた領域を、第3項3号で明文化したものと整理されています(出典: 公益社団法人 全日本不動産協会 月刊不動産 民法233条改正解説)。判断はその場の状況次第なので、安全に関わる場合は写真・動画で記録を残しつつ動くのが基本です。

雨樋・屋根からの落水(218条)はどう進めるか

枝と違い、雨水・雨樋には「自分で切除」という選択肢がありません。218条は設置の禁止を定めている条文なので、お隣にお住まいの方や竹木の持ち主の方に改善を求めるかたちで進みます。

公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターの住まいるダイヤルには、隣地からの雨水・泥水流入のご相談が継続的に寄せられています(出典: 住まいるダイヤル 隣地からの雨水・泥水の流入)。実務上の進め方は次のような順序です。

  1. 落水状況の記録(写真・動画、雨量と落水点の関係)

  2. 図面・現地確認で、雨樋・屋根の構造が原因か、自然な流れか切り分け

  3. お隣にお住まいの方へ書面でご相談(改善のお願い、希望時期、代替案)

  4. 進展がなければ住まいるダイヤル・自治体住宅相談窓口で第三者の助言を入れる

  5. それでも解決しなければ、弁護士に相談のうえ調停・訴訟へ

ポイントは、いきなり訴訟ではなく、書面で残しながら段階を踏むこと。「現に水が落ちてきている」状態を事実として共有する姿勢のほうが、ご近所の方との関係も保ちやすくなります。

越境してしまっている側になっていないか — 5月施行の717条記事との関係

ここまでは越境された側の段取りです。ただ、空き家・実家を遠方からお持ちの方ほど、ご自身の敷地から越境してしまっているケースにも気を配る必要があります。

これらは、5月28日公開の民法717条 工作物責任の記事で扱った「ご自身の工作物がご近所の方に損害を与える場合」と地続きの問題です。枝の越境を止める段階で対応すれば損害賠償の議論まで進まずに済むので、見回り時に双方向で確認しておくと安全です。

サントの現場視点

関西の戸建て・狭小地買取整地では、隣地の植栽越境や雨樋まわりのご相談が必ずと言ってよいほど絡んできます。東大阪・八尾・大阪市内の長屋・連棟では、軒先と境界線が数十センチしか離れていない物件もあり、解体・整地の段階で初めて越境が確認できることも珍しくありません。

サントでは、買取の査定時に境界・越境状況の確認も同時に行っています。自社で解体業を保有しているため、植栽撤去前・雨樋の状態が悪いままでも現況のまま買取ができ、隣地のお宅へのご挨拶・調整も解体工程と並行して進められます。「お隣にお住まいの方に話を切り出しづらい」「相続される方が遠方で動きづらい」というご相談も、出口づくりごとお引き受けできます。

FAQ

Q. 越境してきた枝を、催告なしに切ってしまったらどうなりますか? A. 第3項のいずれの要件にも該当しないまま切除すると、竹木の持ち主の方から損害賠償を請求される可能性があります。原則は催告ルート、急迫の事情があるときのみ即断、と整理してください。

Q. 切除費用は誰が負担しますか? A. 法務省の解説では、枝の切除義務は本来竹木の持ち主の方にあるため、切除費用は原則として竹木の持ち主の方に請求できると整理されています。任意の支払いに応じてもらえない場合は不当利得・不法行為などを根拠に請求することになります(出典: 法務省 民法・不動産登記法部会資料7)。

Q. お隣の家が空き家で連絡先がわかりません。 A. まずは法務局で登記事項証明書を取得して持ち主の方を確認します。それでも所在がわからない場合、第3項2号の要件(知ることができない・所在不明)に該当する整理ができるため、調査記録を残したうえで切除に進める余地があります。

まとめ

枝の越境は2023年4月の民法改正で、催告・所在不明・急迫の3要件で自ら切除できるようになりました。雨樋・屋根からの落水は民法218条で改善を求める手続きが中心です。どちらも書面・記録・第三者窓口を組み合わせ、段階を踏むのが結局いちばん早道です。空き家・実家の管理に関わる方は、見回り時に越境された側・してしまっている側の両方を点検しておくと安心です。

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