家族信託は、認知症などによる 「財産凍結」 を防ぐための代表的な仕組みです。ご両親の判断能力があるうちに契約することで、いざご両親が認知症になられても、ご子息などが受託者として実家の売却・賃貸・修繕を続けられます。ここでは、家族信託の登場人物、成年後見との違い、費用、契約前に知っておきたい注意点を、信託法(平成18年法律第108号)の条文と実務の観点で説明します。
家族信託を構成する3人の登場人物
| 役割 | 誰がなるか | できること |
|---|---|---|
| 委託者 | 財産を預ける人(多くはご両親) | 信託契約で財産管理の条件を定める |
| 受託者 | 財産を管理する人(多くはお子さん) | 信託目的に沿って財産を管理・処分 |
| 受益者 | 財産から利益を受ける人(多くは委託者と同一) | 賃料収入や売却代金を受け取る |
典型的な設計では、委託者と受益者を親御さんご本人にし、受託者をお子さん とします。こうすることで、実家の名義上の管理はお子さんに移りますが、経済的な利益は引き続き親御さんが受け取れる状態を作れます。
成年後見制度との違い
| 項目 | 家族信託 | 成年後見制度 |
|---|---|---|
| いつ契約できる | ご両親がお元気なうち | 判断能力が低下した後 |
| 費用(初期) | 30〜100万円 | 数万円〜10万円程度 |
| 費用(月額) | なし(信託監督人を置く場合を除く) | 後見人報酬 月2〜6万円(原則ご逝去まで) |
| 不動産の売却 | 信託契約の範囲で可能 | 家庭裁判所の許可が必要(居住用不動産) |
| 身上監護(介護契約等) | 対象外 | 可能 |
初期費用は家族信託の方が高いのですが、成年後見の月々の報酬が10年、20年と続くことを考えると、長期的には家族信託の方が総費用が安くなる ご家庭が多くあります。ただし介護契約や医療同意などの身上監護は成年後見の役割となります。
家族信託の費用の内訳
初期費用の内訳は、次のとおりが目安です。
- 専門家(司法書士・弁護士)への報酬:20〜60万円(信託財産の1〜2%)
- 信託契約書の公正証書作成:3〜10万円
- 信託登記の登録免許税:不動産の固定資産税評価額の0.4%
- 司法書士への登記報酬:5〜15万円
信託財産に不動産のみを含める場合は30〜50万円、預貯金など複数の財産を含める場合は50〜100万円が相場です。
契約前に知っておきたい3つの注意点
注意点①|認知症の診断が下りると契約できない
家族信託は ご両親の判断能力が保たれているうち にしか契約できません。認知症の診断が下りた後は、信託契約自体が無効となる可能性があります。「そろそろ準備を…」と思われた段階で、早めのご相談が安心です。
注意点②|身上監護は対象外
家族信託は 財産管理 の仕組みで、介護契約・医療同意・入院手続きなどの 身上監護 は対象外です。この領域は成年後見制度でしか対応できません。ご両親のご希望次第で、家族信託+任意後見の併用 が現実的な進め方となる場合があります。
注意点③|税務・法務が複雑
信託の設計次第で、贈与税・相続税・所得税の取扱いが大きく変わります。司法書士・弁護士・税理士の複数の専門家との連携 が推奨されます。契約書の内容が不十分だと、後で受託者や他のご家族との間でトラブルの原因になることもあります。
空き家所有のご家族にとっての意味
ご両親が認知症になられると、実家の売却・賃貸・大規模修繕の判断ができなくなります。家族信託を活用することで、次のような場面で 「必要なタイミングでの意思決定」 が可能となります。
認知症の診断後に実家が売却できなくなる「財産凍結」を回避するための、有力な備えとなります。
よくあるご質問|FAQ
Q1. 兄弟が2人いる場合、両方を受託者にできますか?
可能ですが、受託者が複数の場合の意思決定ルール(過半数か全員一致か等)を契約書に明記する必要があります。実務では、受託者1名 + 信託監督人にご兄弟 という設計もよく選ばれます。
Q2. 家族信託を組んだ財産は、相続税の対象になりますか?
はい、原則として相続税の対象となります。家族信託は「相続税を減らす」制度ではなく、「認知症で財産が凍結されるのを防ぐ」制度です。相続税対策には別途、生前贈与・小規模宅地等の特例など、他の制度を組み合わせるのが一般的です。
Q3. 実家だけを信託財産にできますか?
はい、可能です。実家(不動産)のみを信託財産とする「不動産のみ信託」がよくある設計です。この場合、費用は30〜50万円ほどに抑えられます。
Q4. 家族信託を組んだあと、契約内容を変更できますか?
できます。ただし、委託者の判断能力が保たれている必要があります。認知症の診断後は原則として変更できないため、初回の契約設計を慎重に行うことが重要です。
Q5. 途中で解除できますか?
信託契約で解除条項を定めていれば可能です。「信託目的が達成された」「委託者と受益者の合意」等の解除事由を、契約書に明記しておくのが安心です。
