相続した実家、引き継がずに済ませられないだろうか」
相続放棄すれば、登記もしなくていいのだろうか」
「登記を放置した場合と、正式に放棄した場合の違いが分からない」

ご相続をお迎えになったご家族から、こうしたご相談をいただきます。特に混同されやすいのが 「相続放棄」相続登記の放置」 です。この2つは名前は似ていますが、根拠となる法律も、手続き先も、期限も、効果もまったく違います。

この記事では、民法915条と不動産登記法76条の2をもとに、2つの制度の違いをご紹介します。「引き継ぎたくない」というお気持ちの延長で、意図せぬ選択にならないよう、正確な情報をお届けします。

まず知る定義|相続放棄と相続登記は別の手続きです

項目相続放棄相続登記
根拠法民法915条以下不動産登記法76条の2(2024年4月施行)
手続き先家庭裁判所法務局
期限自己のために相続の開始があったことを知った時から 3か月以内不動産取得を知った日から 3年以内
効果はじめから相続人でなかったとみなされる(民法939条)相続人として登記名義人になる
「家を引き継がない」効果あり(すべての遺産をまとめて放棄)なし(登記だけの問題)
期限経過のペナルティ原則、放棄不可10万円以下の過料

要点を短く申し上げると、相続放棄は 「遺産をまるごと引き継がない」 ための手続きで、相続登記は 「引き継いだ不動産の名義を自分にする」 ための手続きです。この違いを押さえておかないと、「登記を放置していれば実質的に相続放棄したことになる」と勘違いされることがあります。

相続放棄を選んだ場合|民法915条の効果と制約

効果|はじめから相続人でなかったとみなされる

民法939条により、相続放棄をされたご相続人は 「はじめから相続人ではなかった」 ものとみなされます。実家・預金・株式など、被相続人(亡くなった親御さん)の財産をすべて引き継がなくなります。同時に、借金・保証債務などの負債も引き継ぎません。

期限|3か月という重い制約

相続放棄の期限は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内 です。多くの場合は、亡くなった日から3か月です。この期間を過ぎると、原則として相続放棄は認められません。

ただし、事情がある場合は、家庭裁判所に 熟慮期間の伸長」 を申し立てることが可能です(例:財産の全容が把握できない、相続人間の話し合いが長引いている等)。

注意点1|次の順位の相続人へ波及します

ご相続人が相続放棄をされると、次の順位の相続人(例:ご兄弟の子供、伯父叔母、いとこ等)に相続権が移ります。ご自身が放棄しても、次の順位の親族に借金が引き継がれる可能性があるため、事前に 「うちの後は誰に相続権が移るか」 を確認しておくことが大切です。

すべての相続人が放棄すれば、最終的には 相続財産清算人(家庭裁判所が選任)が管理・処分することになります。

注意点2|「相続放棄しても管理義務は残る」場合があります

民法940条により、相続放棄をされたご相続人でも、「相続財産管理人が管理を引き継ぐまで」 は、当該財産を保存する義務が残ります。実家を放棄したからといって、すぐに管理から解放されるわけではない点にご注意ください。

相続登記を放置した場合|不動産登記法76条の2の効果とリスク

2024年4月から「義務化」されました

2024年4月1日施行の改正不動産登記法により、相続で不動産を取得したご相続人には 3年以内の登記申請義務 が課されました。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料 の対象となる可能性があります。

過去に発生した相続についても、義務化施行日または相続を知った日のいずれか遅い日から3年以内、すなわち多くのご家族で 2027年3月31日まで に登記が必要です。

効果|「相続人」のまま名義人ではない状態が続く

登記を放置している間、実家の登記上の名義は 亡くなった親御さん のままです。ご相続人としての権利は民法上発生していますが、法務局の登記簿には反映されていない状態です。この状態では、次にご紹介する4つのリスクが生じます。

放置することで生じる4つのリスク

リスク中身
過料の対象正当な理由なく3年を超えると、10万円以下の過料が科される可能性
売却・賃貸ができない名義人(亡くなった親御さん)では売買契約・賃貸借契約ができない
共同相続人が増える時間が経つと相続が二次・三次と進み、共有者が10人を超える場合も
担保提供・活用が止まる銀行融資の担保にできない、補助金申請に使えない

特に注意したいのが3つ目の「共同相続人が増える」問題です。相続登記を10年放置している間にご相続人の一人がお亡くなりになると、その方の相続人(お子さん、お孫さん)まで巻き込まれます。世代が下るほど関係者が増え、話し合いが困難になっていきます。

比較|「家を引き継ぎたくない」場合、どちらを選ぶか

やりたいこと選ぶべき制度注意点
家・預金・借金すべて引き継ぎたくない相続放棄3か月の期限、すべての遺産が対象
家を売って現金化したい相続登記(必須)+売却登記なしでは売却できない
とりあえず時間を稼ぎたい相続人申告登記(暫定的対応)登記放置は時間稼ぎにならず、過料リスクあり
借金が多いか確認したい相続財産の調査+限定承認も対象限定承認は手続きが複雑、専門家相談を

「登記を放置していれば、実質的に相続放棄したことになる」 というのは誤解です。登記を放置しても相続権は消えず、過料リスクだけが積み上がっていきます。「引き継ぎたくない」お気持ちがあるなら、3か月以内に相続放棄の判断をされるのが、最も効果的な対応です。

関連する制度|相続土地国庫帰属制度も候補に

2023年4月施行の 相続土地国庫帰属制度 は、相続で取得した土地を国に返せる新制度です。次の条件を満たす土地に限り利用できます。

  • 建物がないこと(更地であること)
  • 担保権が設定されていないこと
  • 通路など他人に権利がある土地でないこと
  • 境界紛争がないこと

費用は 審査手数料14,000円+10年分の管理費(土地20万円〜が目安) です。建物付きの実家では利用できませんが、更地の相続土地では選ぶ道の一つとなります。

サントの現場視点|相続放棄より売却が現実的な場合が多い

実務では、「相続放棄したい」というご相談を伺うことが多いのですが、実際にお話を進めると 売却された方が手取りが多い ご家族もいらっしゃいます。

  • 実家に負債がない場合、相続放棄より売却の方が現金化できる
  • 相続放棄は3か月の期限内なので、迷っている間に期限が過ぎることも
  • 買取なら現況のまま1〜2か月で売却完了できる
  • 3,000万円特別控除で税金がゼロになるご家族もいらっしゃる

「引き継ぎたくない」というお気持ちの背景を伺うと、実は 「管理の手間を負いたくない」「借金があるか心配」 という理由が多くあります。管理の手間なら現況買取で解消、借金の有無は相続財産調査で確認できます。相続放棄以外にも進め方はあります。

よくあるご質問|FAQ

Q1. 相続放棄は弁護士・司法書士に頼まないとできませんか?

いいえ、ご本人だけでも家庭裁判所で手続き可能です。必要書類(相続放棄申述書、戸籍謄本、被相続人の除票等)を揃えて、家庭裁判所に800円の収入印紙で申述します。ただし、書類の不備で却下されると再申請できないため、実務では司法書士・弁護士に依頼するご家族が多くいらっしゃいます。費用は3〜10万円が目安です。

Q2. 相続登記の費用はどれくらいかかりますか?

司法書士に依頼した場合、報酬5〜15万円+登録免許税(不動産評価額の0.4%) が一般的です。評価額1,000万円の実家なら、登録免許税4万円+報酬で合計10〜20万円ほどが目安となります。相続人が多い、複数の不動産、遠隔地の場合は費用が上乗せされます。

Q3. 相続放棄と、遺産分割協議で不動産を取得しないことの違いは?

次のように異なります:
相続放棄:はじめから相続人でなかったとみなされる。借金も引き継がない
遺産分割協議で取得しない:相続人としての地位は保持したまま、話し合いで不動産を他の相続人に譲る。ただし借金は他の相続人と分担
借金がない相続では、遺産分割協議で取得しない方が手続きが簡単です。借金がある可能性がある場合は、相続放棄を選ばれるのが安心です。

Q4. 相続放棄期限の3か月に間に合わない場合は?

家庭裁判所に 「熟慮期間の伸長」 を申し立てることが可能です。財産の全容が把握できていない、相続人間で話し合いが長引いている等の合理的な理由が必要です。伸長は通常3か月ですが、事情により再延長も可能です。期限直前になる前に、司法書士・弁護士にご相談されるのが安心です。

Q5. 相続放棄すると、実家の管理はどうなりますか?

民法940条により、相続財産管理人が引き継ぐまでは保存義務が残ります。すぐに管理から解放されるわけではありません。すべての相続人が放棄した場合、家庭裁判所への申し立てで相続財産清算人が選任され、そこから管理を引き継ぎます。清算人選任には数か月〜1年かかる場合もあるため、放棄後も一定期間の管理が発生する可能性があります。

まとめ|「引き継がない」の中身を明確に

相続放棄と相続登記放置は別物です。要点を振り返ります。

  • 相続放棄:民法915条、3か月期限、すべての遺産を引き継がない
  • 相続登記放置:不動産登記法76条の2、3年期限、過料10万円のリスク
  • 実質的な違い:登記放置は「引き継ぐけど登記していない」だけで、相続権は消えない
  • 時間稼ぎしたいなら:相続人申告登記(暫定対応)が用意されている
  • 売却も選択の一つ:借金がなければ、放棄より売却で現金化する方が手取り増

3か月の期限は短く、判断を先送りすると相続放棄の道が閉じます。まずはご家族で「引き継ぎたくない」の中身(借金不安?管理負担?)を言語化されてから、進め方をお選びいただくのが安心です。

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出典・参考リンク

※本記事は一般的な制度の解説です。個別の判断は、司法書士・弁護士・税理士などの専門家へのご相談をおすすめします。