相続した山林、誰も使わないし管理もできない。国が引き取ってくれるなら助かるのに…」
「実家の土地、もう手放したい。でも『国に返還できる』って本当に通るのかな…」
「申請しても却下されるって聞いたけれど、どこで線引きされているんだろう…」

2023年4月に始まった 相続土地国庫帰属制度 は、 「相続で取得した土地を一定の要件のもとで国に引き取ってもらえる」 という新しい仕組みです。施行から約2年が経ち、 申請5,545件・国庫帰属2,762件 (2026年5月31日時点・法務省統計)まで積み上がりました。

一方で、 却下・不承認になっている土地 もあります。特に空き家のご実家を相続されているご家族にとっては、 「建物がある土地は対象外」 という大前提が、いちばん最初に立ちはだかる壁です。

この記事では、 法務省の公表データ をもとに「国が引き取れる土地・引き取れない土地」の分かれ道を整理し、空き家オーナーが現実に取れる選択肢を並べました。

相続土地国庫帰属制度とは──2023年4月施行の新しい受け皿

正式名称は 「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」令和3年法律第25号 として2021年4月に成立し、 2023年4月27日に施行 されました。

背景にあるのは 所有者不明土地問題 です。土地を相続しても、 遠方に住んでいる・管理できない・売れない という事情で登記が放置され、所有者不明土地が積み上がってきた問題に対して、 「相続したくない土地」を国に引き取ってもらう道筋 を整備したのが本制度の中核です。

制度の基本フロー

段階内容
① 申請法務局に申請書類を提出(申請手数料 1筆あたり14,000円 、土地1区画ごとに必要)
② 審査法務局による要件審査・実地調査
③ 承認要件を満たせば国庫帰属が承認
④ 負担金納付10年分の管理費相当 を納付(宅地は原則20万円)
⑤ 国庫帰属納付後、土地が国の所有に

「タダで国が引き取ってくれる」のではなく、 申請手数料と負担金が必要 、しかも 要件を満たさないと承認されない 、というのが現実的な制度の姿です。

制度2年で何が起きたか──申請5,545件・帰属2,762件の内訳

法務省 相続土地国庫帰属制度の統計による 2026年5月31日現在 の最新数値は次の通りです。

累計申請件数 5,545件(地目別内訳)

地目件数割合の目安
田・畑(農地)2,169件約39%
宅地1,916件約35%
山林850件約15%
その他610件約11%

累計国庫帰属件数 2,762件(種目別内訳)

種目件数
宅地1,018件
農用地879件
森林186件
その他679件

申請件数と帰属件数を単純比較すると、 帰属率は約49% 。ただし、 申請→承認→負担金納付→帰属 には半年以上かかるケースが多く、 「申請中・審査中」 の案件が分母に含まれているため、 実際の最終承認率はもう少し高い と読まれています。

「全国でこの件数」を多いと見るか、少ないと見るか

施行から2年で 累計5,545件 という数字は、 全国の相続案件数 と比較すると ごく一部 です。制度はまだ「広く知られている」段階には至っておらず、 空き家オーナーで存在を知らないご家族 も多いのが現状です。

却下された理由ランキング──書類不備・通路・境界不明

申請段階で 却下 されたケースの理由内訳は、 申請81件のうち 次のように整理されています(法務省公表)。

順位却下理由件数
1申請に必要な添付書類の提出がなかった37件
2現に通路として使われている土地(他人の通行に使用中)21件
2境界が明らかでない土地21件
4申請権限を有しない者による申請9件
5建物が存する土地4件

特に 「境界が明らかでない」「建物が存する」 は、 空き家のご実家を国庫帰属させたい ご家族にとって、いちばん多く立ち止まるポイントです。

不承認になった理由ランキング──地上の工作物・整備必要な森林

審査の結果、 承認に至らなかった「不承認」 ケースの理由内訳は、 申請85件のうち 次の通りです。

順位不承認理由件数
1土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある41件
2国による追加整備が必要な森林35件
3災害の危険により措置が必要な土地11件
4崖がある土地で管理に過分の費用・労力を要するもの7件
4国庫帰属後、金銭債務を負担する土地7件
6民法上の通行権利が妨げられている土地4件
7除去しなければならない有体物が地下に存する土地3件
7所有権に基づく使用・収益が妨害されている土地3件

「地上にある有体物」の中身は、 放置車両・廃屋・倒れかけた塀・大きな倒木・整理されていない樹木 など多岐にわたります。空き家を解体した後の 残置物処理が不十分 なまま申請すると、ここで止まる可能性があります。

空き家オーナーが直面する最大の壁──「建物がある土地は対象外」

ここが本制度のいちばんの分かれ道です。 建物が建ったままの土地は申請段階で却下 されます(法務省「引き取ることができない土地の要件」)。

建物は、一般に管理コストが土地以上に高額であること(国の管理負担を抑える趣旨)

つまり、 ご実家を国庫帰属させたい場合、まず建物を解体して更地にする必要 があります。先週の火曜記事 実家を売るとき、解体する?しない?|2026年の解体費と「住宅用地特例」の落とし穴 でも触れたように、 解体費はここ10年で約50%上昇 しており、 30坪木造で約112〜180万円 の負担が見込まれます。

解体 → 国庫帰属の総コスト試算(宅地30坪のケース)

項目金額の目安
解体費(大阪市の木造30坪)112万円
申請手数料(土地1区画ごと)1筆あたり14,000円
負担金(宅地・原則)20万円
専門家費用(土地家屋調査士・行政書士など、任意)数万〜数十万円
合計の目安約132〜150万円超

このコストを 「自己負担して国に返す」 よりも、 「現況のまま買取に出して、わずかでも現金が手元に残る」 ほうがご家族にとって現実的なケースは少なくありません。 「国に返す」が常に最善ではない という現場感は、ぜひ押さえておいてください。

負担金10年分の管理費相当──宅地は原則20万円から

負担金は 地目ごとの「10年分の標準的な管理費」 として算定されます(法務省 負担金ページ)。

地目負担金の原則
宅地(原則)20万円
宅地(市街化区域用途地域指定あり)面積に応じて加算
田・畑(原則)20万円
田・畑(市街化区域・農用地区域内)面積に応じて加算
森林面積に応じて算定
その他20万円

隣接地まとめ申請の特例

隣接する2筆以上の土地が 同じ地目 なら、 合算して1筆として扱う申請 が可能です。複数筆をまとめて国庫帰属させる場合、 負担金が1筆分で済む ケースがあります。先祖代々の土地が 細かく分筆 されている場合には、この特例が大きな差を生みます。

ケーススタディ:国庫帰属が認められた人・認められなかった人の分かれ道

法務省公表データと業界各社が整理している運用事例をもとに、 国庫帰属が認められた人と認められなかった人 の傾向を整理すると、おおよそ次の構造が見えてきます。

国庫帰属が認められた人の傾向

  • 相続した 更地・農地・山林 で、 建物がない
  • 境界が確定 している(隣地と争いなし)
  • 抵当権などの権利関係がない
  • 土地家屋調査士・行政書士に 申請書類を作成依頼 していた
  • 負担金20万円前後 の支払いに納得できる

国庫帰属が認められなかった人の傾向

  • 建物がそのまま残っている (却下)
  • 境界杭が不明・地積測量図がない (却下または保留)
  • 地上に 放置車両・廃屋・倒れた塀 が残っている(不承認)
  • 傾斜地・崖 で管理に過分な費用が必要(不承認)
  • 過去に 土壌汚染 の懸念がある工場跡地など(却下)

認められなかったケースの多くは、 申請前に整理しておけば通る ものもあります。 解体・境界確定・残置物撤去 をどこまで自己負担で進められるかが、現実の分かれ道になります。

サントが現場で見てきた、国庫帰属に向く土地・向かない土地

弊社 株式会社サント は、 東大阪市・八尾市を中心に大阪府内全域 で、空き家の 買取・再販・解体 を自社で一貫対応してきました。 「国に返したい」 というご相談もこれまで何度かお受けしています。現場感として整理できる傾向は次の通りです。

国庫帰属が向くケース

  • ご実家から 遠く離れた山林・農地 で、買い手がほぼ見込めない土地
  • 地形・接道・地目 が市場流通に厳しく、 仲介でも買取でも値段がつかない 土地
  • ご家族が 固定資産税・管理費の継続支払いを終わらせたい と明確に決めている

「国庫帰属より、まず買取査定」を勧めるケース

  • 東大阪・八尾・大阪市など、 都市部の戸建てエリアにある宅地
  • 狭小地旗竿地再建築不可 でも、 買取再販ルート を通せば買い手が見つかる可能性がある土地
  • 解体費 + 申請手数料 + 負担金 = 約150万円 を負担するより、 現況のまま買取査定 を取ったほうが、 結果として手元に残る額が大きい 可能性がある土地

「国に返す」一択で申請に踏み切る前に、 地元の買取業者の査定 も並べてみる──これが、サントが現場で繰り返しお伝えしているご提案です。

7月のうちにできる、相続土地の国庫帰属を検討するための3つの準備

夏休み・お盆の前に、ご家族で並べておきたい3つの準備を整理しました。

準備①|固定資産税の納税通知書から「地目」と「面積」を確認

ご実家・相続土地の 地目(宅地・田・畑・山林など)面積 を、納税通知書または名寄帳で確認してください。これが 国庫帰属の負担金試算 の出発点になります。

準備②|「境界が明らかか」を1度確認

過去の 地積測量図 が法務局にあるか、 境界杭 が現地に残っているかを確認してください。 境界が不明な場合は、土地家屋調査士による境界確定測量 が事実上の前提になります。

準備③|「国庫帰属」と「買取」を並べて比較

国庫帰属の総コスト(解体+手数料+負担金)と、 地元業者の買取査定 を並べて比較してください。 「どちらが手元に残る額が大きいか」 が、ご家族にとっての答えになります。先週の関連記事も合わせてご参照ください(相続登記の義務化、施行2年で何が変わった…?「相続放棄したのに管理責任は残る」って本当…?)。

FAQ

Q1. 建物を解体すれば、必ず国庫帰属できますか?

「必ず」ではありません。解体後でも、 地上の有体物・境界不明・通行権の妨害・崖の管理困難 などの要件で却下・不承認になることがあります。 解体前に「申請見込みが立つか」 を専門家に確認しておくのが安全です。

Q2. 空き家のままで申請して、解体は後からでよいですか?

できません。 申請時点で建物がある 土地は却下事由に該当します。 建物を解体し、滅失登記を済ませてから 申請するのが正式な流れです。

Q3. 隣接する田畑をまとめて申請できますか?

可能です。 隣接する2筆以上の土地が同じ地目 なら、 1筆として扱う申請 が認められる特例があります。負担金が1筆分で済むため、 細かく分筆された先祖代々の土地 ほど、特例を使ったときの負担金の節約額が大きくなります。

Q4. 負担金20万円の他に、どんな費用がかかりますか?

申請手数料 1筆あたり14,000円 (土地1区画ごと)、解体費(必要な場合)、 土地家屋調査士・行政書士などへの依頼費用 (任意)、 境界確定測量 (必要な場合は数十万円)など。トータルでは 数十万〜数百万円 になるケースが多いです。

Q5. 国庫帰属が認められなかった場合、申請手数料は返ってきますか?

返ってきません。 申請手数料(1筆あたり14,000円) は、申請の受付に対する対価のため、 却下・不承認・取下げ いずれの場合も返還されないのが原則です。

まとめ|「国に返す」前に、必ず買取査定と並べて比較

相続土地国庫帰属制度は、 2023年4月施行から2年で申請5,545件・帰属2,762件 まで積み上がり、 「相続したくない土地」の新しい受け皿 として一定の役割を果たし始めています。

  • 申請5,545件のうち、宅地が約35% ・農地が約39%
  • 却下理由は 書類不備・通路・境界不明・建物存在
  • 不承認理由は 地上の有体物・整備必要森林・災害危険・崖
  • 建物がある土地は申請段階で却下 、解体が事実上の前提
  • 総コスト(解体+手数料+負担金)は 約150万円 に達することもある

「国に返したい」というお気持ちは、 長く管理してきたご家族の率直なご判断 です。一方で、 現況のまま買取に出すと、自己負担なく、わずかでも手元に現金が残る ケースもあります。 「国に返す」と「買取に出す」を、必ず並べて比較 されることをおすすめします。

東大阪・八尾を中心に、大阪府内の空き家相談はサントへ

「国に返すべきか、売るべきか」のような 整理段階のご相談 から、 「もう売却に進めたい」 という段階まで、サントでは無料で承っています。 東大阪市・八尾市・大阪市・寝屋川市 など、大阪府内全域に対応しています。

出典・参考リンク